Room51 数学へのいざない~複雑系

注) 下記の講座は終了しました

  • 神戸会場 2017年 1月 21日(土)
  • 大阪会場 2017年 1月 25日(水)
  • 東京会場 2018年2月24日(土)

東京会場を選択の方:
参加費用が一部異なりますので、詳しくは東京開催のお知らせよりご確認ください。

講習時間・参加費用

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開講会場

岡本会場

三宮会場(レ・ヴィーニュ)

東京会場

東京会場

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サロン開講によせて

1687年にニュートンが「プリンキピア」で力と運動の関係を3法則にまとめ、さらに1864年にマックスウェルが電磁気力に関する法則を数学的に整理して、ここに古典物理学が完成した。当時の物理学者は、これで世の中のあらゆる出来事は、初期条件さえ正しく与えれば、あとはこれらの方程式を解けば未来が決定されると信じたことであろう。確かに、人工衛星の発射とその後の軌道、天体の運行に伴う日蝕、月蝕などはニュートン力学によってほぼ完璧に予測できる。また、デカルトは1637年に「方法序説」の中で、「世界を機械にたとえ、世界は時計仕掛けのようであり、部品を一つ一つ個別に研究した上で、最後に全体を大きな構図で見れば機械が理解できるように、世界も分かるだろう」という主旨のことを述べた。すなわち、部品をもれなく完璧に理解することができたなら、それを統合した全体も理解できるとしたのである。要素還元主義の始まりである。確かに、時計や自動車、家電製品などは、多くの理解された部品が巧みに組み合わされて全体としての製品ができている。そして、それを我々は理解していると思っている。ニュートンやデカルトの言っていることは、対象を限定すれば間違いではなかろう。

 

では、人は生物としてのヒトを理解できているだろうか。人は60兆の細胞からなり、それぞれの細胞には同じDNAが仕組まれ、DNAの機能はまだ未解明の部分はあるにせよ、その分子構造は完全にわかっている。DNAを構成するヌクレオチドの構造や機能も化学の力で解明されている。リンや炭素の原子構造もわかっている。それなら、人はそれらの部品を組み合わせてできているヒトを理解できているかといえば、まだまだ謎だらけである。免疫機構にしても、脳のしくみにしても、わからないことだらけである。

 

自然現象でも、同じことが言える。最近、天気予報は3日程度であればかなり正確に当たるようになっている。これは、観測点を増やし(つまり初期条件をより正確に入力し)、スパコンによって膨大な計算を比較的短時間に行えるようになったからである。しかし、1週間先の予報となると当たらない。もっと金と手間をかけて観測点を増やし、スパコンの性能を極限まで上げることができれば、1989年に上映された「バックトゥーザフューチャー2」で2015年の未来に行ったドクがマーティーに 「この雨はあと5秒後に止む」と言うと、本当に5秒後に雨が止むというシーンのようなことが実現できるのだろうか。

 

地震予知も然り。オーナーが通産省に入って間もない1980年、高圧ガス施設の耐震設計基準の作成を任された。その当時から、近いうちに必ず東海沖を震源とする大地震が起こると学者がいうので、東海地方を地震危険度地域特Aランクとして別格に扱った。あれから、37年が経過したが、東海大地震は起こっていない。起こったのは、当時から安全だと高を括っていた阪神大震災、大津波が発生した東日本大震災、それに最近では熊本地震である。政府は膨大な予算をつぎ込んで地殻のひずみ観測地点を増やし日々警戒を怠っていないが、地震は気まぐれにやってくる。今後、地震予知は精度が上がるのだろうか。

 

いくつか例を挙げたが、これらは「複雑系」という分野で扱われる問題である。複雑系とは、相互に関連する複数の要因が合わさって全体としてなんらかの性質を見せる系であって、しかしその全体としての挙動は個々の要因や部分からは明らかでないようなものをいう。1984年にアメリカニューメキシコ州に設立された非営利団体サンタフェ研究所がいわば梁山泊で、そこから複雑系に潜む法則に関するさまざまな方法論が提唱されてきた。よく知られているカオスやフラクタル、あるいはべき乗則は複雑系と密接に関係している概念である。複雑系の研究成果に対しては、実用性などの観点からこれまで多くの批判が投げかけられたが、社会、経済、自然、生物など現実の世界を理解する方法論として今や欠かせないものであると評価されている。

 

今回のサロンは、この難攻不落の複雑系に挑戦する。専門家の間でも統一的な見解のない世界であるが、複雑系の何たるかを知ることで、今までの世の中の見方、とらえ方に新たな広がりが出てくることは間違いないだろう。